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調査名

「県内企業のイノベーションに関する提言」


概要

提言書 「県内企業のイノベーションに関する提言」
発表日 平成11年5月17日
担 当
イノベーション経営委員会
 
委員長 大松利幸(岐阜プラスチック工業社長)
副委員長 矢橋慎哉(矢橋工業社長)
 


提言要旨

  • 経済のグローバル化や規制緩和による競争の激化を考えると、企業の本質的価値(企画開発力、技術開発力など)で勝負する企業に変革し、独自性を発揮することが望まれる。
  • 顧客に本質的価値を提供する企業に変革するための一例として、アウトソーシングの導入と、多様な人材活用システムを提案する。
  • アウトソーシングは、専門性の向上、コスト削減という有形のメリットはもちろん、その導入プロセスにおいて、企業の強み・弱み、事業の重要性の判断、社内の事業遂行能力などを客観的に分析でき、結果として社内人材の育成、ひいては効率的・創造的組織への変革につながる可能性がある。
  • 終身雇用や新卒一括採用など従来からのシステムを一歩進めて、フロー型人材(契約社員や派遣社員)やキャリア型人材(他企業経験者)を活用できるような多様な人材活用システムを取り入れることを提案する。


提言

1.県内企業の現状と方向性
県内企業が競争に勝ち抜くための経営スタイル・施策を考えるにあたっては、まず現状分析が必要不可欠である。本委員会では、岐阜県企業版ビジネスプラットフォームという独自の分析手法を用い、県内企業のおかれた現状を定量的に分析、併せてその方向性を示した。


提言1. 県内企業は、独自性発揮のため「ファイン型」、「超・下請型」に移行を。

県内企業の現状を、マーケット及び顧客に与える価値によりプラットフォームに位置づけると、地理的な価値や付加的な価値を顧客に与えることによって存続する「地域標準型」、「コスト標準型」が多い。しかし、経済のグローバル化や規制緩和による競争の激化を考えると、企業の本質的価値で勝負する「ファイン型」、「超・下請型」に移行し、独自性を発揮することが望まれる。


1)ビジネスプラットフォームと県内企業の現状
プラットフォームという言葉は、コンピュータ分野でよく使われる。プラットフォームとしてのOS(オペレーティング・システム)が土台にあって、その上に各種アプリケーションソフトが乗っている。
企業経営も同様で、事業基盤としてのプラットフォームがあって、その上に各事業や商品が乗っていると考えられる。三菱総合研究所では、長年の事業戦略づくりの経験から、ある基準での事業を分類しプラットフォームの位置づけを提案した。
本委員会では、三菱総研の考え方を基に、より本県企業の実情に則しアンケートによって分析しやすいように改良を試みた。それが岐阜県企業版ビジネスプラットフォームである。
当プラットフォームでは、ヨコ軸に『対象となるマーケット』、タテ軸には「顧客はなぜ他社でなく、自社のモノ・サービスを買ってくれるのか」という『顧客に与える価値』を置いた。
プラットフォームにおける県内企業の特徴は以下の通りである。

・全体として、「地域標準型」「コスト標準型」が多い。
・製造業は、比較的各プラットフォームに分散しており、多様性が感じられる。
・非製造業は、「地域標準型」と「コスト標準型」に合わせて約76%が位置しており、多様性は感じられない。
・従業員数別のプラットフォーム(調査結果参照)の分布格差はあまり見られない。

2)県内企業の方向性
各々のプラットフォームには原則として序列というものはない。それぞれのプラットフォームで企業として存在しているからである。

例えば、パソコンの販売競争が激化していたとき、富士通は世界最適調達・生産による標準化という手法で低コスト化に成功、競争優位に立った。つまりコスト標準型の典型例である。地域標準型に属する企業でも、地域顧客との絶対的な信頼関係を築くことによって、競争優位に立つ企業も確かに存在する。
しかし、世界最適調達・生産という「量の経済」を働かせることが難しい本県の中小・中堅企業にとって、「地域標準型」「コスト標準型」というプラットフォーム上で独自性を発揮していくことは難しい。

実際に、県内企業の経営者も以上の点を認識し、アンケート調査で約70%の県内企業は、今後「新しい機能や利便性を持つ商品・サービスを開発する企業」すなわちプラットフォームのタテ軸でいうところの『本質的価値』を与える企業に変革していきたいと答えている。
つまり顧客に与える価値を
   地理的価値 → 付加的価値 → 本質的価値
にシフトアップすることによって、プラットフォームをより上位の位置に移行していくことが、県内企業の望ましい方向である。





2.イノベーションのために

顧客に本質的価値を提供し、より上位のプラットフォームに移行するためには、第一に、社内の人材・技術・ノウハウといった経営資源を地道に蓄積することである。しかし、環境変化・スピードが激しい事業や、現状の体制では事業の遂行能力向上が困難である企業は、外部の資源を活用するのも一つの方法である。
内部経営資源の蓄積、外部資源の活用双方に求められるのは、「機能的フレキシビリティ」と「数量的フレキシビリティ」の強化である。両フレキシビリティの強化がイノベーションにつながり、求められる能力の向上を実現する。
本委員会では、2つのフレキシビリティを実現させるための一例として、アウトソーシングの導入と、多様な人材活用システムを提案する。




提言2.アウトソーシングの導入は、人材育成・組織の活性化につながる。

イノベーションのきっかけの一つとして、アウトソーシングの導入を提案する。アウトソーシングは、専門性の向上、コスト削減という有形のメリットはもちろん、その導入プロセスにおいて、企業の強み・弱み、事業の重要性の判断、社内の事業遂行能力などを客観的に分析でき、結果として社内人材の育成、ひいては効率的・創造的組織への変革につながる可能性がある。


1)県内企業とアウトソーシングについて
アウトソーシングは、合理的な経営手法の一つとして県内企業にもかなり認識されている。保安・清掃業務や情報システムといったアウトソーシングの代名詞ともいえるものや生産の外部化などは県内企業でもかなり活用が広がっている。
また、今後アウトソーシングを実施したい部門として「商品開発・技術研究」をあげているのも特徴的である。研究開発は、特に製造業にとっては生命線ともいえる業務であるが、経済のグローバル化や規制緩和による競争の激化は、企業に何よりもスピードを求めていると解釈することができる。社内の人材育成や技術の蓄積を進めながらも、スピードが求められる事業には、アウトソーシングを組み合わせていくのが望ましい方向である。

<主なアンケート調査結果>
■ アウトソーシング導入企業は約55%(全国や愛知県の同調査とほぼ同じ)で、今後検討したいを含めると84%が前向きである。
■ 岐阜県企業版ビジネスプラットフォームで顧客に本質的価値を提供していると答えた企業ほど、アウトソーシングの活用比率が高い。
■ メリットとしては、「人員等のコスト削減」と「コア事業に集中することによる専門性の向上」をあげる企業が多い。
■ 今後活用したい部門として、「保安」や「情報システム」のほか、「商品開発・技術研究」をあげる企業が多い。

2)アウトソーシングとイノベーション
アウトソーシングの導入は、企業に有形無形のメリットを与えるが、そのメリットは「機能的フレキシビリティ」と「数量的フレキシビリティ」である。
アンケート調査で、多くの企業が回答したように、アウトソーシングは企業に「コスト削減」「専門性の向上」といった有形のメリットすなわち『数量的フレキシビリティ』を与える。特にコア事業・業務に集中することによる専門性の向上は、本質的価値を顧客に提供する企業に変身させる可能性がある。しかし、アウトソーシングは、目に見えない無形のメリットも企業にもたらすと考える。それは、導入プロセスである。この導入プロセスは、企業にイノベーションを引き起こす源泉となる。一般的に中小・中堅企業はマネジメントに注力するのは難しく、その部分が弱い。しかし、アウトソーシングの導入プロセスを踏むことによって、経営者は自社の事業・業務全体を客観的に分析することができる。それが、既存の人材の育成や、組織に活力を与えることになり、結果として効率が高く創造的なアイデアを生み出す組織になる可能性があるのである。



もちろん安易なアウトソーシングは慎むべきである。現実に、生産や物流をアウトソーシングしていたベンチャー企業が、経営破綻に追い込まれた事例も存在する。また、アウトソーシングのデメリットとして「社内のノウハウ・組織の弱体化」をあげる意見もある。しかし、上記のようなプロセスをもって導入を入念に検討すれば、重要な事業・業務に集中することによる専門性の向上やコストの削減など、メリットの方がはるかに大きいと考えられる。

3)新規事業としてのアウトソーシング
県内の企業は、元々新規事業への進出意欲は高い。しかし現実には新規事業・新分野に進出できる企業は多くない。そこで、県内企業は、新規事業として「アウトソーシングビジネス」に参入することを提案したい。その背景としては次の点をあげることができる。
@今後、あらゆる日本市場に参入が見込まれる外資や大企業に対抗するためには、中小・中堅企業は、何らかの企業連携の構築が必要不可欠である。
Aアウトソーシングの活用が経営手法として定着すれば、製造業でも、生産専門企業、研究開発専門企業というように専門化が進み、分業体制が確立される。
B中小・中堅企業の新規事業は、リスクヘッジのため、馴染みがありかつ自社の強みを活かした事業とすべきである。

アウトソーシングは、サービス業だけに限らない。製造業でも、検査・研究設備について、ある程度汎用性があるものであれば、他業種への貸し出しや工程のアウトソーシングを請け負うことも可能である。ビジネスのトレンドが従来の垂直型から、水平或いはネットワーク型に移行していることを考えると、製造業にも、アウトソーシングビジネスに参入する機会が存在する。


提言3.多様な人材活用システムに。

経営者はいつも優秀な人材を求めている。しかし、高度な専門知識を持ったスペシャリストや新卒者の確保は、県内企業の規模、職業意識の変化、将来の労働力の推移等から考えると容易でない。今後は、終身雇用や新卒一括採用など従来からのシステムを一歩進めて、フロー型人材(契約社員や派遣社員)やキャリア型人材(他企業経験者)を活用できるような多様な人材活用システムを取り入れることを提案する。



1)労働力の質量の変化
社員を新卒で採用し、定年まで雇用するという日本的雇用システムは、変更を余儀なくされつつある。
その要因は、第一に企業間競争の激化し、年功型賃金制度により定年まで社員を抱え込めなくなったこと。第二に、勤務企業を変わることに抵抗感が無くなり、むしろ自己の専門スキル向上のため企業を変わった方が良いというような、職業意識の変化。第三に、近い将来予測される労働力人口の減少である。

アンケート調査や各種指標による環境変化は次の通りである。
■ 企業の実質労働力である、15〜60歳の労働力人口は、2005年をピークに減少に転じる。(総務庁、労働省調査推計)
■ 若年労働者の減少で、従来型の組織ピラミッドは維持できず、年功型の雇用や賃金システムが崩壊する。
■ 20〜34歳の会社員の意識調査によると、約63%の人が「やりたい仕事や働きやすい環境のために転職することをいとわない」と答えている。(リクルート、1997年)

2)県内企業の現状
県内企業にとって、最も不足する経営資源は「人材」である。特に必要とする人材は「一芸に秀でたスペシャリスト型人材」であるが、その確保の見通しについては、現状では難しいといえる。
また、今後の人員・組織体制としては、正社員を中心としながらも、派遣・契約社員などの非正社員を適宜組み合わせる形態を望む意見が多い。
「企業は人なり」という考え方は経営者に共通するが、必要な人材をいかに確保して活用するかが、県内企業の課題である。

アンケート調査による、人材に関する県内企業の状況については次の通りである。
■ 企業が新しい方向に向かう上で、足りない経営資源は「人材」(約55%)、「技術・ノウハウの蓄積」(約41%)である。
■ 必要な人材は「スペシャリスト」が約52%、「ゼネラリスト」が約27%である。
■ 必要な人材確保の見通しは、「やや難しい」「確保は困難」を合わせて約54%である。

3)ストックから「ストック+フロー+キャリア」へ
平成不況と呼ばれる中、日本企業は事業の再構築を積極的に進めている。その結果、本年2月には失業率が4.6%を記録。社内失業者という潜在的失業者を含めるとその率は10%にも上るという分析もある。
しかし、中長期的観点に立った場合、労働力人口の絶対的減少、若年層を中心とした職業意識の変化等により、「人員余剰」から「人員不足」なっていく可能性も否定できない。元々本県には、労働集約型システムをとる企業が多く、「人員不足」は県内企業に大きな影響を与えかねない。
一方、一般的な派遣社員や契約社員(高度な専門能力を持つ短期契約のプロフェッショナルな人材)は、法律の改正や職業意識の変化、活用企業の増加などで、マーケットが大きく拡大しており、多様な働き方を求めるフロー型人材と企業がうまくマッチングすれば、今後の大きな戦力となる。
以上の点からいえることは、既存の正社員(ストック型人材)の育成・レベルアップを図るだけでなく、状況に応じて、契約・派遣社員(フロー型人材)、キャリア型人材(他企業の経験者)などを戦略的に組み合わせて、活用していくことが望まれる。



従来、企業はコストの削減を第一目的に、派遣社員やパート社員などを周辺的事業の戦力として位置づけてきたが、さらに一歩進めて、コアとなる事業にも多様な人材を活用することが可能である。
本委員会では、既存の社員のレベルアップを図りながら、フロー型人材、キャリア型人材を活用する例を提案する。



このシステムの目的は以下の通りである。
1.既存の正社員について、プロジェクトチームへの参加や個別の能力開発により、その育成・レベルアップを図ること。
2.事業の重要度やスピードによってフロー・キャリア人材を戦略的に配置すること。すなわち、コアとなる事業においては、専門分野に優れたキャリア人材・契約社員を配置することで「機能的フレキシビリティ」を、周辺的な事業においては、業務の標準化を進め、派遣・パート社員を配置することで「数量的フレキシビリティ」を強化すること。
また、人的な経営資源が乏しく、マーケットのスピードが速い企業には、フロー型人材を複数の企業間で活用するシステムも考えられる。



提携先として、次のアライアンス(同盟)が考えられる。各企業は、これらの例の中から、最も都合がよいアライアンスを形成することが望ましい。

■ 業界アライアンス 同じ業界の企業と連携(この場合、業界団体などがコーディネート機能を持つのが望ましい)
■ 地域アライアンス 同じ地域内の企業と連携(この場合、地域の経済団体などがコーディネート機能を持つのが望ましい)
■ 個別アライアンス 製品やサービス、顧客、同一のグループ内での連携

今までと全く同じ環境の中でイノベーションを起こすのは難しい。しかし、外部人材や資源をうまく取り入れインテグレートし、その結果、社内の人材・技術がレベルアップされたときこそ、イノベーションが起こる可能性が高いと思われる。





3.今後の課題 −最終提言に向けて−


本中間提言では、県内企業の現状分析を受けて、イノベーションの必要性を主張してきた。そしてイノベーションのための一例として「アウトソーシングの導入」、「多様な人材活用システム」を提案した。

高い経済成長を続ける米国からは、様々な経営手法が驚くべきスピードで伝えられる。アウトソーシングや人材のフロー化もその一つである。ROE(株主資本利益率)経営というコンセプトが持てはやされたのもつかの間、現在はキャッシュフロー経営こそ新しい物差しだという。このような状況の下、わが国および県内企業にとって必要なことは、それら新しい手法を全面的に受け入れることでもなければ、拒絶することでもない。日本流、本県流、個別企業流にアレンジをすることである。

アウトソーシングや多様な人材活用システムも、米国式経営手法として捉えるのではなく、社内の人材や技術をレベルアップするきっかけとして捉えることが、本県企業にとってより有益である。

しかし一方、企業の活性化、地域の活性化は、一企業の努力だけではできない部分もある。例えば、有能な人材の集積は、活力ある企業の集積、ひいては地域全体に魅力がなければありえない。
必要なことは、「活力ある企業の集積」が「魅力ある地域」を創りあげ、そこに「有能な人材の集積」が進むというスパイラルを実現させることである。



本中間提言をもとに、最終調査年度である次年度については、このスパイラルを創り上げるために何をするべきかを検討する。