![]()
| ■地域経済・企業経営・IT関連 |
はじめに ― いま、なぜ地場産業か ―
■ 本県地場産業の特徴 本県では、繊維・アパレル、金属・刃物、紙、陶磁器、木工・家具、プラスチック、食品の各産業を総称して7大地場産業と呼んでいる。平成9年の工業統計によれば、これら地場産業が県内全製造業に占める割合は、事業所数で約72%、従業者数で約57%、出荷額で約47%となっており、年々下降傾向にあるもののその比率は依然として高い。<P25参照> 本委員会が実施した地場産業の業界団体へのヒアリング調査によると、各地場産業はその沿革や規模こそ異なるものの、概ね共通の優位性を持っている。まず絶対的優位性としては、衣食住という生活密着型の消費財であること、伝統文化に立脚した産業が多いことがあげられる。ライバル産地と比較した相対的優位性については、技能を持った人材の集積、一定商品の市場占有率の高さ、生産技術力、産業別の公的試験場の存在などがあげられる。<P23参照> 一方、課題・問題点は、基盤技術力・商品開発力の低下、アジアとの競争激化、流通・販売力の不足などが共通した事項としてあげられる。 ■ 地場産業の再生を突破口に 我が国の経済構造が変化し、経済の中心が製造業からサービス産業などにシフトしているのは事実である。しかし、元々製造業や地場産業の比率が高いという本県独特の経済構造を考えれば、付加価値の高いサービス業中心の経済構造に劇的に変化していくことは考えにくい。むしろ、豊富な地域資源に立脚した地場産業の変革を促す政策が、雇用の確保や経済効果の即効性・持続性の面からも有効である。 また、衣食住を中心とした生活密着型の商品は、消費者の嗜好や趣味性に大きく左右される消費財であり、先に述べた優位性を鑑みれば、本県地場産業は生活産業としての相応のポテンシャルを持ち合わせていると判断できる。つまり、本県にしかできない商品の開発と販売面の工夫によって、今後伸びる要素は十分にあることを認識するべきである。 提 言 ― 地場産業からライフスタイル産業へ 県内地場産業の再生のためには、単なる日用品産業から、『ライフスタイル産業』への転換が必要である。『ライフスタイル産業』とは、一定の趣味や感性に基づき、生活全般をデザインし提案する産業である。米国では、趣味性の高い生活雑貨の販売や、使い方の提案を行う企業が株式市場に上場するケースもあり、ハイテク、グローバル市場という概念とは、ある意味対極にある『ライフスタイル産業』は大きな成長性を秘めている。 課題は、どのようなプロセスで『ライフスタイル産業』への転換を進めるか。そして、いかにして大企業やアジアの企業が追随できないような独自性を追究するかである。本委員会では、個々の産業ではなくその組み合わせに注目した。 1 地場産業リンケージ戦略の概念
■ リンケージでイノベーションを起こす 地場産業がライフスタイル産業に転換するためには、イノベーションが必要である。本委員会では昨年、企業のイノベーションについて、「従来と同じ環境の中ではイノベーションを起こすのは難しい。外部の人材や資源を取り入れ、融合したときこそイノベーションが起こる」と報告した。地場産業リンケージ戦略は、この考え方を生かし、コンセプト毎に各地場産業・企業がプロジェクトチームを形成。それぞれの技術・ノウハウを組み合わせて新しいライフスタイル商品を開発・販売し、併せて生産工程における省資源化・リサイクル等を行う戦略である。 ■ 世界で唯一の組み合わせ リンケージ戦略のメリットのひとつは、単一の商品でなく、コーディネート商品やユニット型商品の開発が可能な点である。もうひとつは、岐阜県オリジナル商品の開発が可能な点である。例えば、繊維の産地は日本国内でも100を超える。しかし、繊維・アパレル、刃物、紙、陶磁器、木工・家具、プラスチック、食品という産業の組み合わせは、国内はもちろん世界でも本県だけなのである。しかも、各産業は、伝統文化に立脚し、商品シェアも高いというポテンシャルを持っている。これらの技術を結集させ、他の製造業やサービス業のノウハウを組み合わせれば、大企業や生産力を誇るアジアの企業であっても簡単に駆逐することはできない。 ■ 3ステージ・リンケージ リンケージ戦略は、3つのステージで展開する(P22「地場産業リンケージ戦略のフレームワーク」参照)。 ステージ1は、実際に商品を開発する「商品開発リンケージ」、ステージ2は、開発された商品を販売する「販売リンケージ」、ステージ3として、廃棄物の共同回収や再資源化を進める「リサイクル・リンケージ」である。各リンケージは、地場産業を中心としながらも、それぞれのステージで他の産業とも連携を図りながら、プロジェクトを進めることが望まれる。 ■ 大企業の動き−WiLLプロジェクト− 従来型の企業間連携は、その趣旨には賛同しても、同業他社との連携は二律背反の部分もあり、二の足を踏みがちであった。しかし、当リンケージ戦略は、ライフスタイル商品の開発・販売という共通の目的を持った、異なる産業・企業が連携するため、基本的には、得るものはあっても失うものはない。折しも、トヨタ自動車、松下電器など異業種の大企業5社が同一のコンセプトのもと、「WiLL」という統一ブランドをつくり新しいマーケティング手法の試みを行っている。機動性や柔軟性に勝る地方の中小・中堅企業にこそ、そのような新しい試みが必要なのである。 <参考> 異業種合同プロジェクト「WiLL」について
![]() 2. ステージ1 商品開発リンケージ
■ コーディネート組織の設立 本県における産業支援機関としては、大学、公設試験場などがあげられる。特に試験場については、各地場産業別に立地するなど、全国的にも恵まれた環境にある。また、平成8年には各試験場を統括する形で科学技術振興センターが設立され、組織的にも各試験場がヨコの連携を取りやすい状況になっている。従って、商品開発リンケージのきっかけとして、試験場、業界団体、経済団体などが中心となってリンケージのコーディネート組織を設立することが望まれる。 ■ 具体的取り組み コーディネート組織はまず、各産業の固有技術を洗い出し、データベース化を行う。本県に内在する技術を再確認することで、ターゲットとなる市場や商品コンセプトの絞り込みが可能になる。次に、リンケージ商品の開発を望む企業が集まり、各企業は人材を派遣、リンケージ・プロジェクトチームを形成する。各チームは、技術の組み合わせ、市場調査、商品コンセプトの決定などを経て、大学や試験場とも連携しながら新商品を開発する。これらの取り組みは、リンケージ商品の開発という直接効果に加え、開発プロセスを通じて、参画企業自身に技術的なイノベーションを可能にする間接効果ももたらすと考えられる。 ■ 開発が期待される商品例 開発が期待される商品例としては、「ノーマライゼーション」をコンセプトとした日用品の開発があげられる。このコンセプトには、家具・木工、刃物、陶磁器、プラスチックなどの産業の参画が可能である。また、「ゆとり空間」をコンセプトに、繊維、紙、家具・木工などの産業がリンケージを形成して、趣味性の高い壁紙・調度品のコーディネートが可能である。
3. ステージ2 販売商品開発リンケージ
■ 新規の販売ルート 地場産業の業界団体へのヒアリングおよびアンケート調査によると、競合産地・企業と比べて劣っているのは、販売・流通力やブランドイメージである。特に販売ルートについては、各産業とも課題を抱えており、長年の取引慣行から直接取引が困難な事例も存在する。<P27〜28参照> このような状況から、リンケージ商品の販売に際しては、特定企業の販売ルートを活用することは難しく、また企業間の様々な利害関係から考えても好ましくはない。むしろ、開発に参加した企業が、販売面においてもリンケージを形成し、他の産業のノウハウを得ながら、新規に流通ルートを構築するのが望ましい。本委員会では、販売のリンケージについて、その商品特性に応じて2通りの方法を提案する。 ■ 店舗型と無店舗型 店舗型は、文字通り店舗を設ける従来型の販売スタイルである。一方、無店舗型は、カタログによる通信販売やインターネットなどを活用した販売スタイルである。特に、インターネットを利用した取引は、モノやカネの流れを大きく変革させるものとして期待されている。しかし、各地の特産品の販売がインターネットを通じて成功した事例はまだ少なく、その商品の特性や顧客のターゲットに応じて、店舗型と無店舗型を使い分ける必要がある。例えば、前述のノーマライゼーションをコンセプトとした中高齢者向け日用品は店舗型で、ゆとりの空間をコンセプトにした住宅リフォーム商品などは無店舗型で販売することが考えられる。 ■ 店舗型販売リンケージ 地場産業の商品については、既に県の東京拠点であるラピロス六本木などで展示・販売されている。しかし、これらは本県のPRやショールーム的要素が強く、販売の促進には至っていない。店舗型販売は、地場産業が県内のサービス業・小売業などとリンケージを形成し、空店舗など既存の施設を活用する形で展開する。そして、単なる商品の販売を行うのではなく、特定の感性に基づき、ライフスタイルを提案する拠点とするべきである。それには、商品の機能やデザインに加え、『メッセージ(作り手の趣意)』、『テイスト(趣味・好み)』、『アミューズメント(楽しみ)』の3要素が必要である。高機能で本物志向の商品のみを扱うことにより「作り手の趣意」を主張。オーダーメイドシステムを使って自分だけのものを選ぶことにより「高い趣味性」を主張。制作工房を見学、体験制作を可能にすることによって「楽しみ」を提供するのである。 ■ 無店舗型販売リンケージ 無店舗型については、インターネットなどの通信ネットワークやカタログ通販などで販売を展開する。地場産業の中には、自社でホームページを開設し、既にインターネットを使った販売を独自に手掛けている企業も多数あるが、大きな成果があがっているとは言えない。インターネットを使った販売はまず、いかに多くの人にそのホームページを見てもらうかがポイントであり、そのためには、多様な商品、魅力的なサイト構成、決済等の信頼性が求められる。従って、この分野では県内外の有力なIT関連企業とリンケージを進めるのが望ましい。例えば、ネット上の販売では「楽天市場」というインターネットサイトが飛び抜けており、こうしたサイト(企業)との提携が考えられる。一方、カタログ通信販売については、既に「セシール」や「千趣会」などが大きなシェアを占めており、そうした有力企業との提携も考えられるが、県内のタウン情報誌やミニコミ誌を発行する企業とのリンケージも有効である。 4. ステージ3 リサイクル・リンケージ
■ 省資源・再資源化の推進 商品開発、販売と並んで地場産業が抱える問題は、企業活動の出口とも言うべき環境問題への対応である。容器リサイクル法など環境関連の法規制、廃棄物処分場の不足、消費者の環境問題への意識変化等を考えると、環境を無視した事業展開は不可能になってくる。本県の地場産業は総じて企業規模が小さく、金属や石油製品を原材料とする商品も多いため、環境対策が大きな課題となっている。 ヒアリング調査によると、刃物産業では、業界で古い包丁を回収し、再資源化を図っているが、その他の業界の取り組みについては、個別企業の域を出ていない。地場産業がゼロエミッションのような資源の再利用化、あるいはリサイクル製品に対応できるような生産システムを構築するためには、個別企業で対応することは難しく、業界単位や異なる業界間でリンケージを形成し共同で研究を進めることが望ましい。 ■ リサイクル・リンケージ リサイクルを推進するには、まず、不要なモノを家庭や企業から回収することが必要不可欠である。そのためには、商品特性毎にリンケージを形成することが望ましい。例えば、日用品を共通軸に、刃物、陶磁器、プラスチックの各産業がリンケージを形成する。あるいは、衣・住を共通軸にした、繊維、アパレル、家具のリンケージも可能である。共通した商品特性を持っていれば、刃物産業が、刃物供養祭のイベントで古い包丁とともに茶碗やプラスチックも併せて回収するような相乗効果が期待できる。 一方、回収した商品の再資源化や生産システムの構築については、他の製造業、環境関連産業や大学、試験場などとの共同研究を進めるべきである。食品関係の企業の中には、試験場と共同で、卵の殻を利用した肥料の開発や、柿の葉からウーロン茶をつくる技術を開発した例が存在する。また、リサイクルの優等生といわれる紙産業には、再資源化のノウハウを持った企業が多い。環境問題は、コストの価格転嫁などすぐに解決できない問題が多く存在する。他の産業との技術・ノウハウの共有は、省資源化や再資源化のみならず、環境に優しい商品の開発にもつながる。環境というコンセプトを旗印に地場産業が積極的に大同団結することを望む。 5. 行政の支援策
■ ソフトインフラの充実 地場産業リンケージ戦略は、各企業が主体的に取り組むべきものである。しかし、地場産業を取り巻く経済環境が著しく厳しいことや、地場産業の再生が県内経済活性化に大きな影響を与えることを考えれば、特に初期段階における行政の支援が求められる。それは、従来型のハード的なインフラではなく、先に述べたコーディネート組織の設立や補助金・助成金等の交付、既存設備の提供・紹介、特許アドバイザーの派遣などソフト的なインフラの整備があげられる。 ■ 助成金・補助金交付 我が国および本県で行われている助成金・補助金面での産業支援策は数多く存在している。特に、昨年からスタートした中小企業技術革新制度(日本版SBIR)は、各省庁の枠を変えた横断的な中小企業支援策として評価される。しかし、日本版SBIRを含めた各補助金制度は、その多くが組合単位、個別企業単位、あるいは大学等との共同研究などが対象であり、リンケージ戦略のような緩やかな企業連携が対象となるものは少ない。業界単位や全国一律の産業支援は、産業全体の底上げという目的は達成できても、主体的企業の育成や地域独自の産業育成には効果は薄い。従って、現在の我が国の各産業支援制度を地域(都道府県)単位で柔軟に運用できるように改めるか、リンケージ戦略に対する本県独自の補助制度の創設を望む。 ■ 施設・設備面の支援 リンケージ戦略を進めるに際しては、新たな施設を設置したり設備投資等を行う必要はない。商品開発は、県の試験場や空工場などを活用する。生産は、参画企業の工場、販売拠点であれば、空店舗や既存施設の一部を間借りしたり、既に開発が進んでいるJR岐阜駅の高架下に設置をすることも可能である。行政関係機関には、こうした場所の紹介・提供など円滑なコーディネートを望む。 ■ 特許の流通促進や海外との交流支援 その他の支援策としては、特許関連のインフラ整備、海外との交流などがあげられる。特許については、40万件にも上る国内の未利用特許をいかに中小企業や地場産業まで流通させるかが課題である。特許の活用は、地場産業の技術開発に飛躍的な効果をもたらすと考えられるため、特許流通アドバイザーの試験場またはコーディネート組織への派遣を望む。また、海外との交流については、県の海外拠点を活用した販売プロモーションや、県が提携を進めている海外のベンチャー支援機関と地場産業との交流などがあげられる。 6.終わりに バブル崩壊以来、我が国では新産業創出の必要性が叫ばれている。特に、成長性が高い情報通信、バイオテクノロジーなどのいわゆる「ハイテク分野」については、国、地方挙ってその育成に取り組んでいる。本県においては、全国に先駆けた情報産業の育成政策が功を奏し、この分野の産業育成に関しては、他県よりも優位な状況にある。 しかし、全世界の産業の発展を顧みると、その地域に縁もゆかりもない全く新しい産業が誕生し、独立独歩で成長していくケースは稀であり、何らかの地域資源や、複数の産業の組み合わせが新しい産業に発展していくケースが多いことがわかる。例えば世界で高いシェアを誇るドイツのシステムキッチン産業は、従来からあった地場産業(家具産業と家電産業)が融合して生まれたものである。また、米国マサチューセッツでは、情報技術と医療・バイオ産業が融合し、遠隔医療や医療コンサルティングなどの新産業が生まれている。 新しい産業の誕生・成長が、何らかの地域資源や複数の産業に立脚している要因は、その地域のオリジナリティにある。技術やノウハウ、優秀な人材が蓄積された地域から生まれた新産業は、その地域にしかできないというオリジナリティをもつため、グローバル競争になっても強みを発揮する。 そういう点から鑑みれば、"新産業=情報・ハイテク産業"に固執するのではなく、各地域に存在する地場産業や既存産業のベンチャー化という視点も併せて考える必要がある。本県産業の独自性は、モノづくりが基盤となった地場産業である。地場産業が自ら持つオリジナリティを生かし、さらに情報産業など新しい産業のノウハウを融合させライフスタイル産業に転換すれば、それはまさしくベンチャー企業である。 もちろん、全ての地場産業のベンチャー化を望むことは無理である。市場経済のメカニズムのなかにある以上、今後も構造改革が進み、地場産業のなかでも優勝劣敗が明確になるのは間違いない。言えることは、「優勝」か「劣敗」かを決めるのが各企業や地域のイノベーションであり、そのための手法として、様々な技術、ノウハウ、人材を組み合わせることのできるアウトソーシングやリンケージ戦略が有効であるということである。 ヒアリング調査結果 ■ 調査の概要 1)調査先
2)調査期間 平成11年9月9日〜9月28日 3)調査方法 予めアンケート調査票を送付し、アンケート項目に沿って業界の現状、課題等について聞き取り調査を実施。なお、技術的な課題等についてさらに綿密な調査を行うため、一部の業界については、公設試験場等の責任者・技術担当者にも聞き取りを実施。 ■ ヒアリング結果の総括 県内地場産業共通の現状および課題は概ね次の通りである。 @ 現状 ・ 衣食住関係の生活直結型の消費財がほとんどである。 ・ 10年前と比較して、事業所、従業者、出荷額は概ね20%程度減少している。 ・ 問屋、商社経由の販売やOEM供給が大部分を占める。 ・ 生産技術力や技能面では優位性があるが、商品開発、デザイン、流通・販売の面では相対的に劣っている。 ・ ほとんどが単独商品として生産、販売されている。 ・ 輸入品、特にアジア製品との価格競争が激化し、劣勢に立たされている。また、アジア製品は価格だけでなく技術的にもかなり進歩している。 ・ 公的な技術研究機関を有している。(県の試験場) A 課題・今後の方向性 ・ 概ね高付加価値の高級商品の開発を目指している。 ・ 海外市場への販売を模索している。 ・ 問屋や商社に頼らない直接取引(調達・販売)を望んでいる。 ・ 単品でなくコーディネート、モジュール商品の開発・販売を目指している。 ・ 産業間連携としては、技術技能や商品開発面、販売面に関する連携、連携先としては地場産業間が有効であると考えている。 ・ 今後の課題として、オーダーメイド・ハンドメイド商品の開発、高齢者などにターゲットを絞った商品開発と考える産業が多い。 ・ 現在ある技術や技能を継承し複合化するために、地場産業の技術習得や人 材育成の機関設立を望む声が多い。 ■ 産業別ヒアリング結果 委員名簿 (平成12年3月31日現在)
|