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| ■ 地域政策関連 |
T は じ め に 人の移動が歴史を作ってきたという。確かに人は古来、限られた空間から移動することで生活の糧を得、その移動した空間で他の生活様式を身につけた人々とコミュニケーションを持ち、文化や芸術を築いてきた。移動は、人が経済活動を行い、社会参加するなど、自己実現を図るうえで欠くことのできない行為である。 19世紀末にヨーロッパで誕生した自動車は、技術革新を繰り返しながら今日では代表的な移動の手段となった。しかし、マイカーの普及は交通渋滞、環境汚染、市街地の空洞化などの弊害を顕在化させた。さらに、経済の停滞、少子・高齢社会の到来などわが国の社会状況の変化により、過度の自動車依存社会からの転換がクローズアップされてきた。 折しも、岐阜県では「公共バス優先市街地活性化対策(コミバス作戦)」を打ち出し、市街地の多い岐阜市では、「オムニバスタウン構想」(バスを十分に生かしたまちづくり構想)を推進するとともに、バスや路面電車の走行環境の改善などにより各々の移動手段が適切に組み合わされた交通体系を目指し、昨秋、交通社会実験が実施されたことは記憶に新しい。 過疎地である本県の飛騨市河合町、宮川町では昨年8月、政府から「構造改革特区」の認定を受け「デマンド(予約)式ポニーカーシステム有償運送特区」として、住民ボランティアが自動車の運転ができない高齢者らをマイカーで安価に移送する新しい輸送サービスを展開している。 本委員会は、こうした社会の流れを踏まえたうえで、今後の公共交通のあり方について二つの提言を取りまとめた。当提言が本県で公共交通を考える際の資料となり、地域の活性化に貢献できれば幸いである。 U 「公共交通憲章」の制定に向けて
■「公共交通」とは何か 「公共(the public)」は、社会全体に関すること、公のものとして共有すること、を意味する。「公共交通」とは言葉の持つ意味から考えると、社会全体で共有する交通手段である。 社会全体で共有するとは、誰もが利用できることである。そもそも移動は、人の自己実現を図るうえで不可欠な行為であり、誰にでも保障される必要があるから、「公共交通」とは、自動車を運転できない高齢者、妊婦、学生など交通弱者にも等しく移動することを可能にした交通手段、と考えられる。「公共交通」の最大の使命は、社会を構成する誰にでも移動を保障し、必要と思う人には誰にでも移動を提供することである。 また、「公共交通」が、公のものとして存在する以上、高い安全性が確保される必要があるため、車両の運転手は専門技能を身につけていること(プロドライバーであること)が「公共交通」の要件とされる。 ちなみに、「車両に複数の乗客が乗り合うかどうか」については、必ずしも公共交通の要件に含める必要はない。むしろ、交通弱者の移動の保障といった「公共交通」の本質を最大限に重視し、間口をできるだけ広く捉えるべきである。 我々は、「公共交通」を「プロドライバーが運転し、必要と思う人には誰にでも移動を提供する交通手段」と定義する。従って、当提言書でいう「公共交通」とは、電車、バスのほかタクシーも含まれる。 なお、河合町、宮川町のポニーカーシステムは、プロドライバーではなくボランティアが運転している点で公共交通には該当しない。しかし近い将来、ボランティアの条件が厳格に定められる方向にあるうえ、交通弱者の移動を保障している点で公共交通の最大の使命を果たしており、将来的には、当システムは「準公共交通」として位置づけられるべきである。 ■ なぜ「公共交通憲章」が必要か わが国には、高齢者らの公共交通利用の利便性、安全性の向上を目的とする、いわゆる「交通バリアフリー法」はあるが、フランスが持つ国内交通基本法といった交通分野の基本事項を規定する法律は存在しない<注1>。地方公共団体においても、交通安全に関する条例や憲章は存在するが、交通そのものの重要性や地域の公共交通についての基本的な考え方を定めた社会規範は見当たらない<注2>。 公共交通の領域は様々な分野と関連する。たとえば、都市づくりを例にとる。経済の高度成長期には、人々は豊かになりマイカーが普及した。それに伴い郊外での居住が進み、都市のスプロール化が顕著となった。スプロール化は結果として治安、救急、さらに公共交通に関するコスト増をもたらした。わが国の経済成長の鈍化や少子・高齢社会の到来などを視野に入れると、今後は経済効率の優れたコンパクトな都市が形成されることが望ましく、移動の手段としてはマイカーではなく公共交通が中心となる必要がある。 公共交通は、経済成長、都市づくり、少子・高齢社会、環境保全、市民と行政とのパートナーシップなど、我々が直面する課題を内包する重要な分野であり、広く社会全体で議論する必要がある。従って、わが国でも交通に関する基本法を制定することが望ましい。また、県内の地方公共団体では、地域交通に関する条例を制定するほか、少なくとも公共交通についてのガイドラインを定める「公共交通憲章」を制定し、市民の公共交通への関心を高めていく必要がある。 本委員会では、試案として次のとおり「公共交通憲章」を作成した。
■ 「公共交通憲章(試案)」の概要 我々が試案した憲章は、委員会の席上で提案された意見のエッセン スを取りまとめたものであり、前文と5つの条文で構成される。憲章であるため簡潔に表現してあるが、各条の概要は次のとおりである。 ◇第一条 <公共交通は市民のために存在する> 公共交通は社会全体の財産であり、利用者である市民(地域住民)がその担い手であることを宣言したもので、憲章の基礎となる規定である。市民が公共交通のオーナーであるとの認識を持つことが、公共交通の利用促進の第一歩となる。 ◇第二条 <公共交通を魅力あるものとする> 公共交通のあり方の指針を定めた規定である。過度の自動車依存社 会からの転換に最も大切なのは、公共交通を魅力あるものとすることである。すなわち、市民が、公共交通は利便性、経済性などから総合的に判断し、マイカーに遜色のない魅力ある移動の手段であると認識するに至るまで、公共交通の存在価値を高めることである。 ◇第三条 <魅力ある公共交通の実現には、交通事業者、行政だけでなく、市民、企業もまたその責務を負う> 魅力ある公共交通を実現する責務について示した規定である。交通 事業者や行政がその実現に努めるのは当然であるが、地域社会を構成する市民や企業もまた、各々の立場で魅力ある公共交通の実現に向け支援していかなければならない。なお、魅力ある公共交通づくりのためには、公共交通の利用者らの率直な声を聞き、それをケアしていくためのしくみが必要である。 ◇第四条 <公共交通に関する計画を、市民、行政、警察、交通事業者などが一体となり、検討する> 公共交通計画の主体を示した規定である。公共交通利用の促進など それに関する計画は、まちづくり、交通安全の確保などと密接な関連があり、市民、行政、警察、交通事業者などが同じテーブルに着き、地域全体で検討される必要がある。 ◇第五条 <公共交通に関わるコストを、必要に応じ、社会全体で負担する> 公共交通への財政的な支援について示した規定である。わが国では 欧州に比べ、公共交通への財政支援が極めて少ない<注3>。交通事業者が魅力ある公共交通の創造や経費削減を進めるなど経営努力をしてもなお採算が取れない場合には、社会全体で財政的な負担をする必要がある。また、支援する財源(税)の確保に向け、欧州の例も参考にしながら新しいシステムの確立が求められる。 V 「公共交通特区」 (仮称/公共交通利用促進構造改革特別区域) の実現に向けて
■ 望ましい市街地の公共交通イメージ [ 別紙イメージ図参照 ] 我々が考える望ましい公共交通像について、委員会の席上で提案された意見を中心にまとめると、次のとおりとなる。
<基本的なスタンス> バス(路線バスのほかコミュニティーバスも含む)とタクシー(乗合タクシーを含む)が中心となる。 <具体的な提案>
■「公共交通専用レーン」とは 望ましい公共交通像で提案したなかで、我々が最も重要視するのが「公共交通専用レーン」の設置である。「公共交通専用レーン」は、概ね現行のバスの運行時間において、バスとタクシーのみが走行できる車両通行帯であり、片側2車線以上ある道路の最も左側に設置される。タクシーは実車時だけでなく、空車時も走行可能とする。 バスは交通渋滞による不定時性が最大の課題になっており、いくつかの都市でバス専用レーンあるいはバス優先レーンが設置されているが、タクシーの走行を含めた専用レーンはそれほど存在しない。沖縄県の一部の地域では、バス専用レーンにタクシーも走行できることになっているが、走行が許されているのは実車時に限られている。実車時の走行に限定されているのは、乗客の利便性(定時性)を確保する目的からであり、空車時にはその必要性を見出せないためと考えられる。 しかし、公共交通としてのタクシーの利用促進といった視点に立つならば、歩道から近い「公共交通専用レーン」を空車時のタクシーが走行することにより、歩行者がタクシーを利用する環境が改善されることになる。 なお、「公共交通専用レーン」は、バス専用レーンよりもその存在を市民に強くアピールすることが可能であり、これを設置することにより、マイカーの違法駐車などが解消されることが期待される。 また、バスについては交通弱者の移動の負担を軽減するため「公共交通専用レーン」と隣接する歩道の一部に、自由な場所でバスを乗降できる「乗合エリア」を設けることが望ましい。当エリアを設けることにより、たとえば小回りの利くコミュニティーバスは利便性がいっそう高まり、利用者の増加につながると考えられる。 今後の公共交通を展望したとき、現在の国と地方の厳しい財政事情を考えると、新交通システムなど新たな交通手段を建設するのは容易ではない。それならば、既存の交通手段を組み合わせることで魅力ある公共交通を実現するのが最良の道である。 「公共交通専用レーン」の設置は、バスとタクシーが市街地の公共交通の両輪として互いに連携、補完しながら、結果として公共交通の機能を高める「教室」としての役割を果たすことが期待され、魅力ある公共交通の実現に大きく寄与すると考える。 ■ 公共交通特区(仮称/公共交通利用促進構造改革特別区域)の提案 現行制度では、道路交通法第4条(公安委員会の交通規制)により、道路における交通規制は、都道府県公安委員会が行うことになっている。 第4条1項 都道府県公安委員会(以下「公安委員会」という。)は、道路における危険を防止し、その他交通の安全と円滑を図り、又は交通公害その他の道路の交通に起因する障害を防止するため必要があると認めるときは、政令で定めるところにより、信号機又は道路標識等を設置し、及び管理して、交通整理、歩行者又は車両等の通行の禁止その他の道路における交通の規制をすることができる。<以下略> 従って、交通規制の一つである「公共交通専用レーン」を設置するかどうかは、都道府県公安委員会に委ねられている。しかし、公共交通を魅力ある交通手段とするためには、「公共交通憲章(試案)」第4条で掲げたとおり、交通規制と不可分の関係がある公共交通に関する計画については、警察はもちろん市民(地域住民)、地方公共団体、交通事業者などが一体となって、多角的に検討する必要がある。 幸いにも、わが国では、地域を限定して規制緩和を行い、地方の活性化を図るための「構造改革特区」制度がある。既に県内でもいくつかの特区が認定されているが、我々は、県内主要都市の市街地に「公共交通特区」(仮称/公共交通利用促進構造改革特別区域)を設定すべきであると考える。 特区内では、都道府県公安委員会が実施する交通規制のプロセスを@所轄警察署のほか地方公共団体、地域住民、バス、タクシー事業者などで構成される「地域参加型の協議会」を組織する、A当協議会は公共交通の利用を促進するため「公共交通に関する計画」を策定し、県警察が当該計画に基づき交通規制を実施する、こととする<注4>。 我々は、ここでいう「公共交通特区」の提案が、政府の「構造改革特別区域推進本部」に受け入れられること(規制の特例措置として決定されること)を期待するとともに、仮に受け入れられた場合には、県内主要都市のいずれかの地方自治体が、当該特区の認定に向け、特区計画の申請に着手することを切望する。 特区として認定された際には、我々が提案する「公共交通専用レーン」の設置などについても「地域参加型の協議会」で十分に議論され「公共交通に関する計画」のなかに盛り込まれることを期待する。 W 今後の取り組み 以上のように、本委員会は、県内地方自治体が公共交通のガイドラインを定めた「公共交通憲章」を制定することと、県内主要都市の市街地に「公共交通特区」(公共交通利用促進構造改革特別区域)を設定することを提言した。 本委員会では、来年度も当事業を継続し、これらの実現化に向けた活動を実施していきたい。具体的には、「公共交通憲章」の制定については、公共交通の領域は重要な分野であることを訴え、県内の地方公共団体に憲章の制定に理解を求めるとともに、「公共交通特区」についても実現を目指しさらに検討を重ねるなど、積極的に提言のフォローアップ活動を展開していく。 以 上 <注1> 自動車依存の都市交通の価値観を見直し、都市交通の方向性を定めた基本法。「国内交通基本法」あるいは「国内交通に関わる方向付けの法律」と訳される。1982年12月制定。「国民の誰もが容易に、低コストで、快適に移動できる」権限として「交通権」の保障を自治体に義務づけたことと、公共交通促進を目的にした「都市交通総合計画」の策定を自治体に求めたことで画期的といわれている。 <注2> 地方公共団体ではないが「交通権学会」は「交通権」の重要性を訴える「交通権憲章」を作成している。憲章は前文と11の条文から構成される。第11条では、国に「交通基本法」(仮称)の制定を要求している。 <注3> たとえばバス事業への補助率は、欧州では50パーセント前後であり、数パーセントというわが国とは大きな格差がある。(財団法人社会経済生産性本部 路線バスのあり方に関する研究会報告書/「規制緩和時代の路線バスのあり方」より) <注4> 松山市は昨年11月、まちづくり交通安全対策事業として「松山市観て歩いて暮らせるまちづくり交通特区」の認定を受けた。同市の中心市街地などでは、道路交通法第4条について特例措置を講じ、「地域参加型の協議会」が策定した総合的なまちづくりの計画に基づき、県警察が交通規制を実施することになっている。 |